極度の恐怖心に襲われたとき、人は声が出なくなるらしい
よだれを垂らしたおばさんが彼の下着に手をかけた時、彼は恐怖のあまり声をあげられなかった
抵抗しようにも、両手両足をベッドに縛り付けられた状態で、彼にはどうすることも出来なかった
おばさんは彼の下着をずり下ろすと、露わになった彼の突起物を
“か〜わいい〜”と言ってにやにやしながら触り始めた
《いやだ、やめろー‼︎やめてくれー‼︎》
声にならない心の叫びも虚しく、彼の体は弄ばれ、恥ずかしめを受ける自分が情けなくて涙が溢れてきた
16歳、まだ女性すら知らない身で、彼は犯されたのだ
しかも精神疾患の患者に
それがどんなに惨たらしい事なのか、受けたものにしかわからない
声を上げる人に誹謗中傷するやつがいるが、そいつがいかに無情で卑劣な人間か、いや自分の身に起こってみないとわからない人以下の生物だ
事件が起きた某事務所では訴えを聞いてくれる体制ができたようだけど、誹謗中傷を恐れて、声を上げられない人は世の中にまだまだたくさんいると思う
彼の場合、声を上げたところで、相手は精神疾患者だ
罰せられず終わるのはわかっている
ベッドに縛られた状態で下半身丸出しの彼に何が起こったのか、院内の人間は察したはずだ
なのに、誰も何も言わない
傷ついた彼の心に寄り添う者もなく、何事もなかったように、ベッドは放置された
これが、脳が壊れた者たちが収容される、謂わゆる“精神病棟”なのだ
*この話は「いつか辿り着ける陽のあたる場所」の外伝であり、ノンフィクションです。