“彼”の家はとにかく変な家なのだ
不登校になった子どもを精神病院に入れることからしておかしいんじゃないかと思うが
親に捨てられた思いとそこでの屈辱的な出来事が“彼”を不安障害という心的病に追い込んだというのに
親は最期まで“彼”に寄り添うことはなかった
人生のどん底を味わった“彼”はふつうの人の生活には戻れず、抗不安剤、抗うつ剤を飲みながら生きる意味を見出せないままの日々を送っていた
“彼”は薬漬けになり、薬なしでは自分を保てないほど重病化していたが、親兄弟は知らんぷりだった
やがて昼間家で寝ているような厄介者の“彼”が疎ましくなったのか、わたしが劣悪な環境から連れ出すと態度が変わった
厄介者がいなくなってせいせいしたと言わんばかりに
兄は“彼”に対し、家に来るな!の一点張り
母親が病気になっても見舞いに来るな!といい
母親が亡くなるときも“彼”に会わせようとはしなかった
ふつうなら、危ない状態の母親に、父親や兄弟は会わせようとするものではないのか?
“彼”を呼びつけたのは、母親の貯金を解約するために“彼”のハンコが必要になったとき
しかし、ハンコを押させたらもう用済みと言わんばかりに、遠くから6時間もかけてやってきた“彼”を労うこともなく、家に泊めることもなく、その足で日帰りさせた
資産家でありながら、“彼”に母親の遺産を分けるでもなく、お礼と称した五万円と形見分けと称した母親の古着をもたせ、また6時間の帰路につかせた
“彼”が家を出てから家に入った兄はことさら“彼”に冷たくなった
莫大な遺産を自分ひとりで相続するため、父親に遺言書をかかせた
“彼”に遺産をやらないためだ
しかし、法律が許さない
遺言があっても“彼”には遺留分を請求する権利があるのだ
たとえ遺言書に示された相続人である兄であっても、法に叛くことはできない