兄は“彼”を常に見下してきた
親に精神病院に入れられたことも、不安障害や薬物依存症になったことも
すべては“彼”の所為、“彼”が悪いと言う
14歳の“彼”が抱える闇に親兄弟は気づいてやらなかった、やれなかったのではなく確実にやらなかった
16歳の“彼”が引き篭もる気持ちを誰も理解してやらなかった
親兄弟が見て見ぬふり
そうして、厄介者扱いのように、家から引き摺り出され、精神病院に入れられたのだ
16歳の高校生が親に見捨てられる思いがどんなものか、当人にしかわからない
そんな“彼”を体裁よく“かわいそうな弟”として扱い、兄心を見せていたのだが、
財産相続という問題が浮上したとたん、今度は遺産を削る“嫌な弟”に扱いが変わった
父親には早く遺言を書くように迫った
もちろん“財産のすべてを長男に相続させる”という内容でだ
なかなか父親は納得しなかったが、母親に病気が発覚したとき、父親はついに観念した
身近にいる息子に老後を委ねるしかないと悟ったのだろう
兄はこの法的遺言書にて、すべての親の財産を手中にした思いだっただろう
しかし、その資産は数億であり、相続税も相当な額だ
どう工面するのかはわからないが、借金でアパートを建て、減税を試みたりはしていたようだ
とにかく、弟である“彼”には1円たりとも遺産を渡さない計画を着々と進めていたようだ
世間体は“弟を気にかける兄”風を装っているが、著書にも書いた通り、“彼”の入院時には保証人を笑って断り、父親に“彼”への絶縁状を書かせた人間だ
父親の訃報を一日延ばしに報告してきた理由はわからないが、支払いの銀行口座を止めないためには、たとえもう関わらないと絶縁状を父に送らせた弟であっても、父親にとっては息子である“彼”の印鑑が必要だったのだ
慌てて“彼”を父親の葬儀に呼んだ背景が見えてくる
その際、“彼”が出て来ないとでも思ったのか、“彼”宛に父親から預かっていたお金がある、と言ってきた
餌に食い付いてくる魚扱いか?とわたしは激怒した
弟である“彼”を見下すにもほどがある!
更には“彼”に父親の遺産はない、と言う
遺言を書かせていたのだから、そうなのだろうが、親の不適切な対応の所為で心的障害を負った“彼”に対して、あまりにもひどい言いようだった
“親父は遺言に書いてないですけどね、相続税を払って、余ったらいくらかやろうと思ってるんですよ”
いかにも弟を思いやる風のセリフだったが、わたしが、
“約束してくれますね”と念を押すと、
“それはちょっと。余ったらですから”と口篭ったのだ
それが何を意味するのか、誰でも想像がつくだろう
「俺は弟を思って遺産をやろうと考えていたのだけれど、莫大な相続税がかかって余らなかったよ」という筋書きだったのだ
“彼”の印鑑がほしいために、急に父親から預かったお金があるなどと、餌をちらつかせる兄を誰が信用できるだろうか
本の中で書いたように、この兄に“彼”の後見人であるわたしは酷い扱いを受けたのだ
無論、当の本人である“彼”が黙っていない
弁護士に相談して、“彼”の遺留分を奪還する用意はできた
闘いの始まり、賽は投げられた
わたしは争いは好まないし、わりと穏やかな性格だと思っている
けれど、売られた喧嘩は買いますよ、そして勝ちます(知る人ぞ知る、相棒の右京さん風)