学校へ行けなくなった彼はずっと部屋にこもっていた
つらかった
苦しかった
親に気持ちをわかってほしかった
けれど、わかろうとするどころか、親たちは彼の心を踏み躙った
ある日突然、体格のいい4、5人の男たちが彼の部屋に入ってきた
彼は空手をやっていたこともあり、それなりに体力には自信があった
だからこそのこの体格の男たち、この人数だったのだ
いきなり腕を捕まれ、身体を押さえつけられた
“何をするんですか‼︎”
彼はもちろん抵抗した
“病院へ行くんだ”
彼らのうちのひとりがそういうと、まるで犯人を取り押さえるような格好で、彼を部屋から引き摺り出した
“いやだ!お父さん、この人たち誰なの?”
必死で抵抗を試みるが、人数的に勝ち目がない
嫌がる息子の姿を目にしながらも、父は何も言わない
母親も当然このことは知っていたはずだが、連行される息子の姿を見たくなかったのか、とうとう顔をみせなかった
何の説明すらないまま、彼は車に乗せられた
男たちに身体を抑えられ、逃げ出すこともできない
“どこへ行くんですか!”
何が起こっているのか、理解できていない彼の言葉に、
“君は病気なんだ。だから、病院で検査を受けるんだよ”
男のひとりが答えた
“検査だけですか?”
不安げな彼の問いに、
“検査だけだ。何でもなければ帰れるんだよ”
そんな風に説明した
病院へ向かう道はとても長く遠く感じた
このまま地の果てまで連れて行かれてしまうんじゃないだろうか
陽が傾き始めると途轍もない不安が彼を襲った
やっと病院に着き、彼は車から降ろされた
それでも逃げ出さないようにがっちりと男たちが身体を捕まえていた
どうやら、後ろの車に父親が乗っていたらしい
病院で何やら手続きをし、そのまま帰ろうとしていた
“えっ?どうして?お父さん!”
自分は置いていかれるんだと彼はとっさに悟った
“お父さん!置いて行かないで!ちゃんと学校行くよ!ちゃんと学校行くから置いて行かないで!”
彼の叫びに反応して、父親は小さく、
“春也…”と言いかけたようだった
だが、それ以上は何も言わず、車に乗り込むと行ってしまった
彼は強く唇を噛んだ
“捨てられたんだ”
悲しみが溢れた
けれど、悲しみに打ちひしがれた思いで涙も出なかった
*この話はノンフィクションです。
「いつか辿り着ける陽のあたる場所」の外伝です。