“彼”は人生のどん底にいた
親に捨てられ、体を汚され、話の通じない精神疾患者の中で暮らす日々
心はすでに壊れてしまっていたが、生きる気力さえ失いかけていた
廃人になりかけていたと言っても過言ではない
学校へ行けなくなっていただけなのに
なぜこんな目に遭わされなくてはならないのか?
施設に入れられた当初の疑問はもう意味を成さないものになっていた
脳障害をもつ者、精神疾患者の一員として、これからの長い人生をおくらなければならないなどと考えたら、自分を見失ってしまうに違いなかったから
“彼”は考えないようにするのが精一杯だった
自らの命を断つ勇気もない
ただ親に与えられた不本意な人生をまっとうするしかない
生きる意味などないのに
“彼”の未来には絶望しかなかった
と、
諦めかけたとき、一筋の光が“彼”の元に差し込んだ
なりたての若い青年医師が“彼”のところにやってきた
何やら、“彼”を下等動物扱いしているスタッフに言っている
“この子は違うんだ!どうやら手違いでここにいるようだ”
〈手違い?〉
何も感じなくなりかけていた“彼”の心がざわついた
〈どういうこと?〉
青年医師は“彼”に近づいてきて言った
“大丈夫!君は正常だよ”
その言葉を聞いたとき、“彼”の中に再び人としての感情が流れ出した
“君は今日からこっちの病棟ね”
青年医師は優しくそういうと、“彼”を悪夢から救い出してくれたのだ
*この話は実話であり、「いつか辿り着ける陽のあたる場所」外伝です。