彼が若い青年医師に連れて行かれたのは、別の病棟だった
そこには彼と同じ年齢(中学、高校生)くらいの子たちがたくさんいた
“君は今日からこの病室だよ”
青年医師に告げられ、男子数人がいる部屋に案内された
彼らはみな、何らかの事情で学校へ行けなくなっている子たちだった
“何か手違いがあったみたいで、すまなかったね”
謝られれば、“いえ、大丈夫です”そう答えるしかなかったが、前病棟で受けた心の傷は生涯消えることはないだろう
ただ、話の通じる仲間の中で生活できることになったことにほっとした
《なぜ、みんなはここにいるの?》
聞いてみようとしたが、聞かずともわかっていた気がした
年齢からして、みな親にここに連れて来られたのだろう
どうやら、ここには不登校児を扱う権威ある教授がいるという話だ
子どもが学校へ行けなくなり、どうしたらよいか相談した結果、ここを紹介されて来たのだろう
後々、彼も親から聞いてそれを知ることになる
が、果たして、本当に不登校児の治療などできているのだろうか?
毎日、苦くてまずい薬を飲まされる
それが何に効く薬なのか知らないままに飲まされていて、彼は同部屋の子に聞いてみた
すると、
“俺、飲んでないよ。飲むふりして吐き出してるんだ。あんな不味くて舌が痺れる薬、やだよ”
という答えが返ってきた
そっか、飲まなくても何にも変わらないんだ
彼は少しずつ、自分たちがその有名ななんとか教授の実験に使われているということを悟っていった
いわゆるモルモットだ
のちに、不登校児を治す治療をしているとかなんとか、インチキくさいことで訴えられ、その教授は弾劾されたと噂に聞く
しかしながら、親にとっては厄介な子が治療のために病院にいるというだけでも、安心だったのかもしれない
*これは「いつか辿り着ける陽のあたる場所」の外伝です。