同じ父親、同じ母親の下に生まれた子なのに
彼はいつの間にか厄介者になっていた
理由のひとつは彼の家が古いしきたりにとらわれている“旧家”であること
あわゆる長男が戸主であり、すべての財産を引き継ぐ決まりになっているらしい
姉は“財産は放棄しろ!”と言われて嫁がされた
だから、二男も同様に邪魔な存在だった
現法律ではたとえ遺言があっても子には遺留分が存在する
知っていたのか、知らなかったのかは定かではないが、遺留分侵害額請求の内容証明郵便を受け取るまで、兄は弟に1円たりとも父親の財産を渡す気はなかったのだろう
もっとも病気の弟がそんな弁護士案件の要求など出せるはずがないと、たかを括っていたのかもしれない
請求文書を受け取った兄は慌てて彼に電話をしてきた
“相続税払わなきゃならないんだ。そんなお金ないよ”
察するに、弟に財産を分ける気はなかったようだ
理由の二つ目に、この家族には思いやりがない
病気の弟は親に援助してもらわなければ生活できないことも考えにはない
親に精神病院に強制的に入れられて不安障害になったというのに、働けない彼に年金すら積まれていなかった
家の片隅で薬漬けになっていたことにも気付かず、いや気付いていながら見て見ぬふりを続けていたのかもしれない
やがて薬で身体を蝕まれ、死んでいくのを待っていたのだろうか
あまりにも彼に対する思いがなかった
わたしが彼をこの家から連れ出さなければ、おそらく彼は闇に葬られていただろう
わたしが憎まれるのは、彼を生かしているからだ
黙っておけば病気で死んでいたものをわざわざ治療して生かそうとしているのだから、厄介者の彼同様にわたしという存在は厄災だろう
だが、厄災と言われようが、わたしは闘う
彼に正当な遺産が渡されるまで、思いやりのない“旧家”かぶれに物申すつもりだ